「多焦点眼内レンズって単焦点と何が違うの?」「費用がかかると聞いたけど、本当に自分に必要なのかな…」など不安を抱えていませんか?
多焦点眼内レンズは、遠くと近くの複数の距離にピントが合うため、手術後のメガネへの依存度を大きく減らせるレンズですが、夜間運転の頻度など生活スタイルによって向き・不向きがあります。
この記事では、多焦点眼内レンズの基本的な仕組み、メリットとデメリット、レンズの種類、費用の違いまで、詳しく解説しています。
この記事でわかること
- 多焦点眼内レンズの仕組み
- 多焦点眼内レンズのメリット・デメリット
- 種類別の特徴
この記事の執筆者
熊田充起 くまだ眼科クリニック 院長
常日頃意識しているのは、「治す眼科医療」をめざすこと。日帰りでの白内障手術を数多く手がけるほか、緑内障の早期発見や小児眼科など、幅広い患者様のニーズに対応。
目次
多焦点眼内レンズとは
多焦点眼内レンズとは、白内障手術に使われる人工レンズの一つです。
大きな特徴は「さまざまな距離にピントが合う」という点で、遠くを見るとき、中間距離を見るとき、近くを見るときなど、いろいろな場面で自然に焦点を切り替えられるよう設計されています。
従来の「単焦点眼内レンズ」では、遠くか近くのどちらか一方にしかピントが合わないため、手術後もメガネが必要になりますが、多焦点眼内レンズなら、その必要性を大きく減らすことができます。
多焦点眼内レンズの種類は大きく2つ
多焦点眼内レンズは、大きく分けて「回折型多焦点眼内レンズ」と「EDOF(焦点拡張型)眼内レンズ」の2種類があります。
それぞれの特徴を解説していきます。
回折型多焦点眼内レンズ(2焦点・3焦点・5焦点)
回折型多焦点眼内レンズは、光の回折現象を利用して光を複数の焦点に振り分ける仕組みです。
焦点の数によって「2焦点」「3焦点」「5焦点」に分かれており、それぞれ異なる見え方の特徴があります。
2焦点眼内レンズ
遠方と近方の2つの距離に焦点が合うレンズです。
多焦点レンズの中では歴史が長く、技術的にも成熟していますが、中間距離(60cm〜1m程度)がやや見づらい場合があるため、2焦点型は減少傾向にあります。
3焦点眼内レンズ
遠方・中間・近方の3つの距離に焦点が合うレンズです。
近方(40cm)、中間(60cm〜80cm)、遠方の3つに焦点が合いやすい構造で、日常生活のほとんどの場面でメガネなしで過ごすことができます。
当院で扱っている「クラレオン パンオプティクス」は近方40cm・中間60cm・遠方に、「ビビネックス ジェメトリック」は近方40cm・中間80cm・遠方に焦点が合う設計です。
2019年に国内初承認されて以降、多くの患者様に使用されています。
5焦点眼内レンズ
遠方・遠中・中間・近中・近方の5つの距離に焦点が合うレンズです。
最も視力の範囲が広く、2焦点や3焦点では補いきれなかった「焦点と焦点の間」での見え方が改善されています。
当院では「インテンシティ」という5焦点レンズを導入しており、日常生活のあらゆる場面で裸眼での見え方の質を追求しています。
EDOF(焦点拡張型)眼内レンズ
EDOF(Extended Depth of Focus:焦点深度拡張型)眼内レンズは、従来の多焦点レンズとは異なる仕組みで、焦点深度を拡張する技術により、遠方~中間距離を連続的に見えるようにするレンズです。
光を複数の焦点に振り分けることなく、見える範囲を広げるため、焦点が切り替わるときの違和感が少なく、自然でなめらかな見え方が特徴です。
ただし、近方視力がやや弱い傾向があるため、細かい文字を読むときや暗い場所ではメガネが必要な場合もあります。
多焦点眼内レンズのメリット
ここからは多焦点眼内レンズの利点について詳しく見ていきましょう。
①「メガネに依存しない生活」が期待できる
多焦点眼内レンズの最大のメリットは、日常生活でのメガネへの依存度を大きく減らせることです。
遠方(運転、景色)、中間距離(パソコン、料理)、近方(読書、スマホ)の複数の距離に焦点が合うため、メガネなしで見える範囲が広がります。
単焦点レンズでは必要だった、外出時や日常生活でメガネを探す・かけ替えるストレスから解放され、日常生活のほとんどの場面でメガネなしで過ごせる可能性があります。
もちろん、細かい文字を読むときや暗い場所では必要な場合もあり、完全に不要になるとは限りませんが、使用頻度は大幅に低下します。
②乱視矯正ができる
多焦点眼内レンズには乱視矯正機能付きのレンズ(トーリックレンズ)があり、白内障手術と同時に乱視も矯正できるため、術後の見え方がより良好になります。
従来は白内障と乱視を別々に対処する必要がありましたが、一度の手術で両方を解決できるのは大きなメリットです。
乱視矯正機能付きレンズは費用が若干高くなりますが、長期的な視力の質を考えると価値ある選択肢といえます。
当院では全ての多焦点眼内レンズに乱視矯正機能付きのオプションを用意しており、乱視の程度によって適切なレンズを選定できます。
③種類が多く、ライフスタイルにあわせて選べる
先述したように、多焦点眼内レンズの中でもEDOF、2焦点、3焦点、5焦点など、多様なレンズタイプから選択可能です。
患者様のライフスタイル(夜間運転が多い、読書をよくする、パソコン作業が多いなど)に合わせて最適なレンズを選べます。
選定療養レンズと自由診療レンズから、予算と希望に応じて選択でき、ハロー・グレアを最小限にしたい方、遠中近すべてを見たい方、最新技術を求める方など、「何を重視するか」に応じて選択が可能です。
多焦点眼内レンズの注意点
多焦点眼内レンズを選択する前に、いくつかの注意点を理解しておくことも大切です。ハロー・グレア現象と費用について、正直にお伝えします。
ハロー・グレア現象が発生しやすい
多焦点眼内レンズを挿入した後、一定数の方に「ハロー・グレア」という現象が起こります。
ハロー:光の周りに「輪」ができて見える現象
グレア:光が長く伸びて見える、眩しく感じる現象
夜間運転時に信号や対向車のライトが眩しく感じる場合があります。
ただし、最近の多焦点レンズ(特にEDOF)はハロー・グレアがかなり解消されており、ほぼ無いものも出てきています。
「どのレンズならハロー・グレアが少ないか」については、後述の選び方ガイドセクションで詳しく解説しますが、EDOF系は少なく、回折型はやや出やすい傾向があります。
やや高額になる
多焦点眼内レンズは、健康保険が適用される単焦点レンズに比べて費用が高くなります。
選定療養の場合は、片眼30万円~(レンズ代のみ、手術費用は保険適用)ですが、自由診療の場合は片眼50万円以上(手術費用・レンズ代・術後3ヶ月の診察代など全て含む)となります。両眼では60~100万円以上の負担が必要です。
ご自身の生活スタイルを振り返り、医師と相談しながらレンズを選ぶことが大切です。
私生活にあわせた選定が大切(「高額=見やすい」ではない)
ここまで記事を読み進めても、どのレンズにすべきか迷われるかもしれませんが、「何がベストか」は患者様個人の生活スタイルによって変わります。
ここでは多焦点眼内レンズの選び方について詳しく解説します。
ハロー・グレアを最小限にしたい:EDOF(焦点拡張型)レンズ
回折型多焦点眼内レンズのように光を複数の焦点に振り分けないため、ハロー・グレアがほとんど出にくくなったのがEDOF(焦点拡張型)レンズです。
光が眩しく感じやすい方、夜間の運転を心配されている方に最適ですが、完全に近方が見えるわけではないため読書や細かい作業ではメガネが必要な場合があります。
遠中近すべての距離を見たい方へ:3焦点・5焦点レンズ
回折型の技術で光を複数の焦点に振り分けるため、遠方(運転、景色)、中間(パソコン、料理)、近方(読書、スマホ)のすべてが見えやすく、メガネへの依存度を減らす効果が期待できるのが回折型多焦点眼内レンズ(3焦点・5焦点)です。
ただし、ハロー・グレアがEDOFより出やすい点は注意が必要です。
当院では、メガネをできるだけかけたくない方、趣味や仕事で遠中近すべての距離を見る方には、三焦点・五焦点をお勧めしています。
費用を抑えつつ多焦点を選びたい方へ:選定療養レンズ
単焦点眼内レンズよりは費用が高額になりやすい多焦点眼内レンズですが、選定療養制度を使うことで、国内承認レンズが比較的手頃な価格で利用可能です。
レンズ代のみ自己負担となりますが、白内障手術費用は保険適応が受けられます。自由診療と比べると選択肢が限られますが、選定療養レンズも満足度の高いレンズです。
「費用を抑えたいけど多焦点眼内レンズも諦めきれない」という方にも安心してお選びいただけます。
最新の技術を求める方へ:自由診療の最新レンズ
まだ選定療養制度が適用されていない海外製レンズには、最新技術が搭載されています。
自由診療レンズの費用は片眼50万円以上(術後3ヶ月の診察・検査・薬代込み)と高額ですが、見え方にとことんこだわりたい方が選ばれる傾向があります。
当院が「多焦点レンズ」を扱うのは“術後の見え方”まで考えたいから
くまだ眼科クリニックでは、平成26年(2014年)より、多くの患者様に多焦点眼内レンズを用いた白内障手術を施行してきましたが、現在でも患者様の満足度の高い、院長が厳選したレンズを多く採用しています。
ここからは、当院が取り扱う多焦点眼内レンズのそれぞれの特徴を詳しくご紹介します。
選定療養レンズ
当院で扱う選定療養レンズを以下にご紹介します。
クラレオン ビビティ(Clareon Vivity)

焦点深度拡張型眼内レンズ(EDOF)です。遠方〜中間距離〜実用的な近方視を実現し、メガネ依存度を大きく軽減できます。
またハロー・グレアが出にくいため「夜間の運転」などを心配されている患者様にもご使用いただきやすいレンズです。
クラレオン パンオプティクス(Clareon PanOptix)

回折型の「3焦点眼内レンズ」です。近方(40センチ)・中間(60センチ)・遠方の3つに焦点が合いやすい構造となっています。
テクニス オデッセイ(Tecnis Odyssey)

回折型(2焦点)と焦点深度拡張(EDOF)型を組み合わせた構造です。遠方から近方(40センチ)まで連続的にスムーズに見えます。
ビビネックス ジェメトリック(Vivinex Gemetric)

回折型の「3焦点眼内レンズ」です。近方(40センチ)・中間(80センチ)・遠方の3つに焦点が合いやすい構造となっています。
ビビネックス ジェメトリックプラス(Vivinex Gemetric plus)

ビビネックス ジェメトリックと同じ光学特性で、近方(40センチ)の光量配分を増やした構造をしています。
左右にビビネックス ジェメトリック、ビビネックス ジェメトリックプラスと別のレンズを入れるペアリングをすることで、良好な遠方・近方視力を得ることもできます。
自由診療レンズ
ミニウェルレディ(MINIWELL ready)

遠方から近方にかけて、視力の落ち込みが少ない焦点深度拡張型眼内レンズ(EDOF)で、ハロー・グレアがほとんどないのが特徴です。
良好なコントラスト感度を保持するのも特徴的で、スポーツや料理、デスクトップのPCなど中間距離をメインに使う方に推奨しています。
ミニウェル プロクサ(MINIWELL PROXA)

ミニウェル・レディと同じ技術を使った真の焦点深度拡張型眼内レンズ(EDOF)です。焦点深度拡張型眼内レンズ(EDOF)の弱点である「近方視の弱さ」を解消するために製作されており、ミニウェルレディの遠方部分を弱く、近方部分を強くした構造となっています。
優位眼にミニウェルレディ、非優位眼にミニウェル・プロクサを入れることを「Well Fusion」と呼び、両者は補完的に働き、遠方~中間距離~近方までを自然でスムーズな見え方を実現する技術を採用しています。
エボルブ(Evolve)

イタリア製の焦点深度拡張型眼内レンズ(EDOF)で、遠方〜中間距離に焦点が合いやすいレンズです。
またハロー・グレアが出にくく、選択可能なレンズ度数の幅が非常に広いため、他社の多焦点眼内レンズで対応ができない「強度近視」にも対応可能です。
※乱視矯正は完全オーダーメイドとなっています。
インテンシティ(Intensity)

近方・近中・中間・遠中・遠方の5つに焦点が合う「5焦点眼内レンズ」です。日常生活のあらゆる場面で、裸眼での良好な見え方を追求した眼内レンズとなっていますが、一定数の方にはハロー・グレアが出る可能性があります。
【院長コラム】「選定療養 or 自由診療」をもっと詳しく
選定療養とは、国内で承認された多焦点眼内レンズに限って白内障手術費用は保険適用、多焦点レンズ代のみ自己負担となる「多焦点眼内レンズの”贅沢な部分だけ”を余分に支払って下さい」という制度です。
手術代、診察代・検査代・薬代などは通常どおり健康保険でのお支払いとなります。
対して自由診療は、手術費用、多焦点眼内レンズ代金、術後3カ月の診察代・検査代・薬代などすべてが自己負担となりますが、国内未承認の高度な多焦点眼内レンズも選ぶことができます。
単焦点眼内レンズと同等とまではいきませんが、費用を抑えながら多焦点眼内レンズを選択することができる制度が選定療養制度なのです。
※費用面のみでいえば「選定療養の方が費用を抑えられる」と覚えていただくといいと思います。
多焦点眼内レンズのよくある質問
多焦点眼内レンズについて、よくある質問にお答えします。
Q.単焦点と多焦点、どちらを選ぶ人が多いですか?
A:全国的には単焦点を選ぶ方が多いとされていますが、当院では多焦点をお選びいただくケースも増えています。
どちらが優れているということはなく、あなたの生活スタイルや優先順位によって最適なレンズは異なりますので、まずは眼科医にご相談ください。
Q.多焦点眼内レンズを「選べない場合」はありますか?
A:網膜疾患など他の眼疾患がある場合は適用できないこともあります。
また、非常に高い視覚(色覚)の質を求める方は、コントラスト感度の低下を考慮する必要があります。詳細は眼科医にご相談ください。
Q.「単焦点or多焦点」で迷っています。どう決めるべきでしょうか?
A:まず眼内レンズは医療機器ですので、コンタクトレンズのような感覚で患者様の独断で選ばせることはありません。まずは医師の診断・提案が必要になります。
くまだ眼科クリニックでは入念なカウンセリング、術前検査を通して、患者様のライフスタイルを丁寧にヒアリングし、最適なレンズを一緒に考えます。
眼内レンズは入念な検査の上、「医師の判断」が必要です

この記事では、多焦点眼内レンズの特徴について解説してきました。
遠方から近方まで複数の距離にピントが合うため、メガネへの依存度を大きく減らせるレンズですが「種類が多くてどれを選べば良いか分からない」と迷う方も多いでしょう。
大切なのは、ご自身の優先順位(夜間運転の頻度、遠中近すべてを見たいか、費用をどこまで許容できるか)をもとに、医師が診察した上で決めていきます。決してあなた一人で迷うことではありません。
この記事のポイント
- 多焦点眼内レンズは遠方・中間・近方にピントが合い、メガネへの依存度を減らせる
- レンズの種類(EDOF、三焦点、五焦点)によって見え方の特徴が異なる
- ハロー・グレアが出やすいが、最近のレンズは改善されており、多くの方は慣れる
- 費用は選定療養で片眼30万円~、自由診療で50万円以上
- ライフスタイルに合わせて最適なレンズを選ぶことが重要
くまだ眼科クリニックは、平成26年から多焦点眼内レンズに取り組んできた10年以上の実績を踏まえて、あなたに合わせた眼内レンズをご提案します。
また白内障手術についても東海エリア有数の最新設備を導入しています。
白内障は必ず失明してしまう病気ではありません。少しでも目に違和感を感じたら、まずは眼科医にご相談ください。
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