白内障手術で目の中に入れる眼内レンズについて、「一度入れたら一生使えるのだろうか」「途中で劣化して、また手術が必要になるのではないか」と不安に感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。これから手術を受ける方にも、手術を終えてしばらく経った方も、気になると思います。
そこで本記事では、白内障手術で使用される「眼内レンズ」について、寿命(耐用年数)があるのかについて解説していきます。
この記事でわかること
- 眼内レンズの寿命はどれくらいか(何年もつのか)
- 眼内レンズが劣化しにくいといわれる理由(素材の特徴)
- 交換や再手術が必要になる例外的な場合と、その対処法
- 手術から時間がたって見えにくくなったときに考えられる原因
- 手術後に異変を感じたときの受診の目安
この記事の執筆者
熊田充起 くまだ眼科クリニック 院長
常日頃意識しているのは、「治す眼科医療」をめざすこと。日帰りでの白内障手術を数多く手がけるほか、緑内障の早期発見や小児眼科など、幅広い患者様のニーズに対応。
目次
眼内レンズの寿命は?一生使い続けられるのか
結論からお伝えすると、眼内レンズに決まった耐用年数はなく、一度入れれば基本的に一生使い続けられると考えられています。
日本眼科医会でも「眼内レンズの寿命は人間の寿命より長いと考えられています」と説明されているように、眼内レンズは“一生使える”ように設計・審査されています。
実際に、国内で使用される眼内レンズは、厚生労働省の承認を受けており、「厳格な耐久試験」を通過しています。
ただし、「絶対に交換が起きない」わけではありません。度数が合わなかったり、位置がズレてしまったりした場合には取り出すこともあります。
これについては後ほど詳しくご説明します。
出典:『白内障手術と眼内レンズ 眼内レンズを上手に選ぶために|日本眼科医会』
劣化しにくい理由…体内変質しにくい「アクリル系素材」が使われているから
眼内レンズが長持ちする理由は、体内でも変質しにくい素材で作られているからです。
現在最も広く使われているのは、アクリル系素材の眼内レンズで、アクリルとは生体への適合性が高く、目の中で炎症や異物反応を起こしにくいという特徴があります。
光や体液に対しても安定しているため、何年経っても劣化や変形が起こりにくいです。
また先ほどもお話したように、眼内レンズは厳しい基準のもとで強度や体内での安定性、安全性などが確認されたうえで使用されるので『寿命・耐用年数』を心配していただく必要はほとんどありません。
なお、ごく稀にレンズ自体が濁る現象が報告されていますが、これは例外的な場合として後述します。
単焦点・多焦点などレンズの種類でも寿命は変わらない
「高いレンズ(多焦点)のほうが長持ちするのでは…?」と考える患者様もいらっしゃいますが、レンズの種類によって寿命そのものが大きく変わることは基本的にありません。
眼内レンズは主に『単焦点』と『多焦点』があります。
単焦点レンズは遠方・中間・近方の「どこか一つ」に焦点を合わせるレンズ、多焦点レンズは「遠近両方にピントが合う機能」を持つレンズです。
つまり、種類の違いは「ピントの合う位置や範囲」、すなわち見え方の違いであって、寿命の差ではありません。レンズ選びは寿命で決めるのではなく、患者様のライフスタイルに合った見え方で判断するものです。
レンズの種類ごとの違いや選び方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
レンズの交換や再手術が必要になるのはどんなとき?

眼内レンズは基本的に交換不要ですが、例外的に交換や再手術を検討することはあります。
どうしてもレンズを取り出さなければいけないケースは主に、
- 眼内レンズの位置がズレてしまったとき
- 度数が合わなかったとき
- 見え方がどうしても合わないとき
しかし、そもそもこういったことが起こるのは非常に稀です。
しかし、起こってしまった場合でも、対応方法が確立されています。
レンズの位置ズレ…「眼内レンズ強膜内固定術」で対処可能
眼内レンズを支える組織が弱くなると、レンズの位置がずれたり外れたりすることがまれにありますが、これは手術で対処できます。
そもそも眼内レンズは、「チン小帯」と呼ばれる細い多数の繊維によって周辺の組織に支えられています。加齢や外傷などによってこのチン小帯が弱くなったり断裂したりすると、稀にレンズがずれたり、目の奥に落ちたりすることがあります。
つまり、原因はレンズ本体の品質不良や劣化ではなく、レンズを支える組織側の変化であることが多いです。
日本白内障学会の報告によると、こうしたずれが起こる割合は、手術から6〜12年で1〜3%程度とされており、頻繁に起こるものではありません。
そしてずれてしまった場合も、レンズを摘出して新しいレンズを固定し直す手術や、レンズの支持部を白目(強膜)に直接固定する「眼内レンズ強膜内固定術」などで対処が可能です。
度数の不一致…レンズの入れ替えで調整可能
術前の計算と実際の見え方に誤差が生じる「度数ずれ」が起こることがあり、程度が大きければレンズの入れ替えをします。眼内レンズの度数は、術前検査で目の長さや角膜のカーブなどを精密に測定し、計算式に基づいて決定します。
しかし、眼軸が極端に長い・短い場合やレーシック手術を受けたことがある場合などは、どんなに精密に検査してもずれることがあります。
ずれの程度が小さければ眼鏡で矯正することもありますが、ずれが大きい場合や見え方にどうしても不満がある場合は、レンズの入れ替えを検討します。
レンズに慣れない場合や、レンズが濁る場合も交換検討が可能
レンズの見え方にどうしても慣れない場合や、レンズ自体が濁る場合でも交換を検討することがありますが、いずれも頻度は低いです。
例えば多焦点眼内レンズには、ハロー(光の周りにリング状のもやがかかったように見える現象)やグレア(光がぎらついてまぶしく感じる現象)といった不快な見え方が起こることがあります。術後の見え方には時間とともに順応していくことが多いですが、まれにどうしても慣れない場合は、単焦点レンズへの入れ替えを検討することがあります。
また、レンズの混濁もごく稀に報告されており、程度によっては交換が必要になる場合があります。
当院では、こうした「合わない」をできる限り減らすため、術前カウンセリングで患者様のライフスタイル(運転をよくする、パソコン仕事が多いなど)を詳しくうかがったうえでレンズ選択をしています。
【よくある質問】手術から時間が経って見えにくくなった。これは寿命ではない?
「最近見えにくくなってきた。レンズの寿命が来たのではないか」とご相談に来られる患者様も、当院の診察で稀にあります。
しかし、手術から時間が経ってからの見えにくさは、多くの場合、レンズの寿命や劣化ではなく、「後発白内障」などの別の原因の場合が多いため、放置しないことが非常に重要となります。
白内障手術のあと、数か月から数年して「まぶしくなる」「目が霞む」といった症状が出ると「レンズがダメになったのでは…?」と感じる患者様が多くいらっしゃいます。これは「後発白内障」と呼ばれる疾患の場合が多く、白内障手術の時に水晶体を取り除いたあともレンズを支えるために残しておく薄い袋(水晶体嚢)の後ろ側、後嚢が濁ってくることで起こります。
白内障手術では濁った水晶体そのものを取り除いているため、同じ白内障が再発することはありません。しかし、後嚢が濁ることで、白内障のときと似たような「まぶしい」「かすむ」といった症状が出ることがあります。
後発白内障は、手術後数か月から数年を経過して起こります。ただし、見えにくさの原因がすべて後発白内障というわけではありません。
後発白内障は、日帰りのレーザー治療で濁りを取り除くことができます。
ほかの目の病気の場合もありますので、原因は診察で確認することが大切です。
見え方に異変を感じたら:自己判断せず、早めに眼科を受診しましょう

見え方に異変を感じたら、自己判断で様子を見ず、早めに眼科を受診してください。
ここまでご説明してきたとおり、術後の見えにくさの原因はレンズの寿命ではないことが多く、後発白内障であれば外来のレーザー治療で、位置ずれや度数ずれであれば手術や入れ替えで、それぞれ対処の方法があります。
しかし、どれが原因なのかは、診察でなければ確かめられません。
- かすんで見える
- まぶしく感じる
- 手術のあとよく見えていたのに、見え方が変わってきた
こうした症状は、手術から数か月〜数年たってから現れる後発白内障のサインである可能性があります。
また手術直後の数日以内に急に見えにくくなったり、強い痛みや充血を伴う場合は、ここでお話ししている経過とは別に、緊急性の高い症状である可能性がありますので、時間を置かず、手術を受けた医療機関をすぐに受診してください。
また、症状が出てから受診するだけでなく、定期検診を続けることも大切です。
当院では術後の定期検診を実施しており、何かあればすぐに診られる体制を整えています。「患者さんに安心してもらうことも治療の一つ」と考えているからです。
白内障治療や眼内レンズの選び、術後の目の不安などのお悩みがあればお気軽にご相談ください。
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